non-REM睡眠中にslow oscillationを促進すると記憶成績が向上する

遅くなりましたが、3です。今回紹介する論文はこちら。

Boosting slow oscillations during sleep potentiates memory

Marshall L, Helgadóttir H, Mölle M, Born J. Nature. 2006 Nov 30;444(7119):610-3.

 古い論文ですが、最近読んだため。
 睡眠は記憶の固定化に寄与し、その機能は細胞外電位の周期的振動の一種、slow oscillation (<1 Hz) と関係があるとされています。しかし、slow oscillationが、ニューロン集団の状態を表す単なる付帯現象であるのか、それともそれ自体が何かしらの意義を持つのか、ということは不明です。筆者らは、non-REM睡眠中のヒトに、経頭蓋で周期的な電流 (0.75 Hz) を注入することで、slow oscillationが促進され、陳述記憶成績が向上されることを示しました。以下、まとめ

 筆者らは、被験者 (医学生) に、海馬依存的な陳述記憶タスクの一種であるpaired-associate learning taskをさせた。本タスクは、単語のペアをいくつか覚えさせるというものであり、睡眠後の方が学習直後よりもテスト成績が良いことが既に示されている。学習直後にテストをし、被験者に睡眠をとらせ (7.5 h)、non-REM睡眠中に0.75 Hzでon/offが切り替わる電流をPFC付近に経頭蓋で注入した (slow oscillating stimulation、5 min×5回、interstimulus interval: 1 min)。被験者が起床してから、再度テストをした。すると、電流注入した群での成績向上の度合 (睡眠後の正解数-学習直後の正解数) は、sham群よりも高かった (Figure 1)。一方、手続き記憶であるfinger-sequence tapping taskについては、睡眠後の記憶成績向上は認められたものの、その度合いに群間での有意な差異はなかった。また、non-REM睡眠中ではなく、起床直前 (約一時間前) に電流注入をした場合、およびnon-REM睡眠中に5 Hzの電流注入をした場合、いずれについても陳述記憶について成績向上の増進は認められなかった。
 睡眠中のEEGについて解析すると、slow oscillating stimulationのinterval中 (非刺激下) ではslow oscillationの強度が大きく、またslow wave sleepにある時間が長いことが分かった (Figure 3、Table 1)。ここから、筆者らは刺激中にもslow oscillationが生じていると主張しており、これが記憶成績向上の増進に寄与していると考察している。
 
 以上より、non-REM睡眠中に周期的な電流を注入することでslow oscillationが促進され、記憶成績が向上することが示された。


 脳波というと、ニューロン集団の状態を表す指標としての側面が強い印象を持っていました。しかし世の中には逆の考え方があるようで、「細胞外の電気的環境が細胞の活動性に影響を与える」ことをephaptic couplingと言います。細胞外のイオンの挙動が変われば、確かに何か影響が出そうな気がします。しかし具体的に「何に影響するのか」という問題は不明で、今後の課題でしょう。