IκBキナーゼがsocial defeat stressによるシナプスと行動の変化を制御している

こんにちは、Φです。今回紹介させていただく論文はこちら。
IκB Kinase Regulates Social Defeat Stress-Induced Synaptic and Behavioral Plasticity
Daniel J. Christoffel et.al., Journal of Neuroscience, January 5, 2011
うつ病の主な症状のうち、無快楽や意欲低下について報酬系との関与が知られており、また、うつや不安、薬物依存などの精神障害において、報酬系でのスパインの異常な変化との関係も示唆されています。しかし、このような樹状突起の形態変化を担う分子メカニズムやその機能的役割についてはあまり知られていません。

筆者らはNAcニューロンでの樹状突起スパインの形態、シナプスサイズ、mEPSCの変化の検討、ならびにIκBキナーゼに着目し、social avoidanceのメカニズム検討を行いました。
結果は以下の通り。
・chronic social defeat stressによりNAcニューロンでのスパイン密度増加がみられ、このスパイン密度の増加は、首の短いstubbyスパインでのみ観察された。また、NAcニューロンでPSDサイズの増大、mEPSCの頻度増大もみられた。
・以上の変化はsocial defeat stressに感受性のあるsusceptibleマウスでのみ観察され、また、stubbyスパインの密度増加、PSDサイズ増加、mEPSC頻度増大それぞれとsocial interaction ratioに相関がみられた。

次に、social avoidanceに対して、上でみられたようなスパインの構造変化がどのように関与しているのか、そのメカニズムについて検討がなされていきます。ここで筆者らはIκBキナーゼに着目し検討を進めていきます。
結果は以下の通り。
・chronic social defeat stressによりIκBキナーゼ(IKK)、IκBα、p-IκBαに増加がみられ、social interaction ratioとの間に相関がみられた。
・dominant negative IKKをNAcに選択的に発現させると、chronic social defeat stressによるstubbyスパイン密度の増加ならびにsocial avoidanceがみられなくなった。
・constitutively active IKKをNAcに選択的に発現させると、通常ではsocial avoidanceを生じないような弱い条件(subthreshold microdefeat)でもsocial avoidanceを生じた。

以上まとめると、chronic social defeat stressがIKK依存的にNAcニューロンでのスパイン構造変化をもたらし、それによりsocial avoidanceが生じる、ということです。

シナプスの形態変化と行動変化に相関がみられている点が興味深いです。また、stubbyシナプスの増加がVTAでのDAニューロン発火率増加によることや、stubbyシナプス増加により扁桃体や海馬などからNAcへの興奮性入力が増加している可能性が示唆されており、NAcだけでなく、VTAやamygdalaなど他の部位との関連性を常に意識しておくことが重要だと感じました。

Φ