記憶の固定化と増強におけるIGF-II の役割

Nature. 2011 Jan 27;469(7331):491-497.
A critical role for IGF-II in memory consolidation and enhancement.
Chen DY, Stern SA, Garcia-Osta A, Saunier-Rebori B, Pollonini G, Bambah-Mukku D, Blitzer RD, Alberini CM.


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21270887


ついに、出ました。
SFNで、Cristina Alberini が“もうすぐNatureに出る”と言っていた
海馬のIGF-II による記憶の増強のお話です。



筆者らは前報で、inhibitory avoidance (IA) training の後一時的に
海馬でCCAAT enhancer binding proteinβ (C/EBPβ) が増加することを示した。
今回は、そのターゲットであると考えられる IGF-II に着目した。


【結果】
Fig. 1
IA training の後一時的 (20時間後) に海馬で IGF-II の発現が上昇。
この上昇は C/EBPβ antisense oligodeoxynucleotide (β-ODN) で阻害される。
Fig.2
IGF-II ODN antisense (IGF-II-ODN) の injection によって海馬でIGF-II をノックダウン。
直後と8時間後、もしくは24時間後と32時間後の injection で、記憶の保持が阻害される
これは recombinant IGF-II の投与でレスキューされる。


ここで、IGF-II のレスキュー実験で、記憶成績が向上したことに着目!


Fig.3
IA training の直後にIGF-II を海馬に投与すると、1日後、7日後の記憶成績が向上。
また、非処置群は3週間後には成績がtraining前程度になる (忘却) が、
IGF-II 投与群では忘却が阻害されている
扁桃体IGF-II を投与しても成績は向上しない。
(ちなみに、IA以外のタスクとして、文脈的恐怖条件づけでも enhance されていました)
Fig.4
再固定化においても、IGF-II 投与で成績が向上する。


ここからは、enhancementのメカニズムに迫る研究。


Fig.5
IGF-II はIGF-I 受容体にも II 受容体にも結合するが、enhancement に関わるのは II 受容体
また、IA は再固定化に海馬での新規タンパク合成が必要ではないことを利用して、
IGF-II による (再固定化時の) enhanceにタンパク合成が必要かどうかを検証。
必要。具体的には Arc が必要であることがArc-ODN を用いて示されている。
Fig.6
IGF-II によって、弱い刺激で誘導されるLTP (100min. 以内に baseline に戻る) が維持される



固定化に関与する (C/EBPβ) の下流として IGF-II に着目したら、
なんだか記憶が増強されているよう。試してみたらその通り!
という、経緯で発見されたのでしょうか。
行動実験のおもしろさだなぁと感じます。
カニズムに関しても調べていますが、今後さらに明らかになっていくことを期待します。


以上、Alberini のかっこいいパンツスーツ姿に SFN で一目ぼれした
Qoo がお送りいたしました。