PKMζの阻害は恐怖記憶の発現を一時的に阻害する

修論を出し、奨学金返還免除の申請書も出し、ようやく一息と思ったら、息つく間もなく修士発表のスライドが追いかけてきました(泣)。とはいえ先月はサボってしまったので、今月はこのわずかな間にブログを更新しておきます。紹介するのはこちら。

Temporary disruption of fear-potentiated startle following PKMζ inhibition in the amygdala. Parsons RG, Davis M. Nat Neurosci. 2011 Jan 23.

Brief Communications なのでブログもさくっといきます。

PKMζが長期記憶の維持に必要なことは皆さんご存知のとおり。筆者たちはPKMζの阻害が記憶を永久に消すのかどうか、様々なタイムポイントで扁桃体に阻害剤を投与することで調べました。
におい条件づけを行ったラットの両側扁桃体に、PKMζ阻害薬であるZIPか、コントロールとしてsalineまたはscrambled ZIPを投与してテスト、というのが実験の基本デザイン。
実験1では訓練1週間後に薬物投与、その2時間後または2日後にテスト。どちらのタイムポイントでテストしてもZIP投与群では記憶が阻害されました。
実験2では訓練1週間後に薬物投与、その2日後または15日後にテスト。すると、2日後にテストをした場合のみZIP投与群で記憶が阻害されました。15日後のテストでは記憶は阻害されず。このことから、PKMζの阻害による記憶障害は、記憶が消去されているわけではないことがわかります。
実験3では訓練1日後に薬物投与、その1日後と10日後にテストする群と10日後のみにテストする群を設けました。すると、1日後と10日後にテストした場合はZIP投与群で1日後、10日後とも記憶が阻害されましたが、10日後のみテストした場合はZIP投与群でも記憶が阻害されていませんでした。
ZIP投与後テストまでに時間を空けると記憶がintactなのは、時間が経つにつれ記憶のPKMζ依存分が減少していく、訓練から時間の経った恐怖記憶の発現は扁桃体依存ではなくなってくる、といった考察がなされていました。また、投与1日後にテストをはさんだ場合だけ10日後に記憶が阻害されていたのは、過去の知見から、はじめのテストによってそれに続くテストが影響を受けるのだろう、としていました。

まだメカニズム等詰め切れていない感はありますが、興味深い結果だと思います。過去の知見を考えると、タスクや脳部位によってもPKMζの作用は異なってくるようですね。本研究によってPKMζを阻害しても(扁桃体におけるにおい恐怖条件づけについては)記憶は消えていないということが明らかとなり、記憶の維持に必須とされるPKMζの役割について、まだまだ新しい知見が出てくるのではと感じました。記憶の維持機構についてのより深い理解にも結びつくかもしれません。


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