こんにちは。3です。今回紹介する論文は以下。


 Single-cell optogenetic excitation drives homeostatic synaptic depression

Goold CP and Nicoll RA. (2010) Neuron. 68, 512-528.


 細胞の発火率は、長期的に見ればほぼ一定であるということが知られており、これをシナプス伝達のホメオスタシスといいます。実際、神経活動レベルの変化に応じて、シナプス伝達強度が代償的に調節されるということが発見されています。しかし、恒常性維持のための神経活動レベルの上昇のsensingが、ネットワークレベルで行われているのか、細胞レベルで行われているのかは分かっていません。これを明らかにしたのが本論文です。また、Homeostatic plasticityの機構についても調べられています。
 筆者らは、神経細胞の活動性を上昇させるために、チャネルロドプシン2のトランスフェクションを採用しています。これは、神経活動を生じさせる他の方法 (薬物処置や電気刺激)に比べ、以下のような利点を持っていると考えられます。
 1. 特定の細胞 (細胞集団)のみを活動させることができる
薬物の潅流や、通常の電気刺激では多数の細胞が活動してしまうので、今回の実験には不適です。
 2. 活動のコントロールが正確
長時間 (今回は24時間光刺激)に渡り、神経活動をreliableに調節できます。この「長時間」というのがホメオスタシスの実験においては重要であると思います。


以下、内容のまとめ


 光刺激 (50 ms pulses, 3 Hz, 24 h)により、AMPARおよびNMDAR性のEPSC強度が減弱する (Fig. 1)とともに、mEPSCの強度および頻度が低下した (Fig. 2)。しかしPPRに変化はなく、スパイン密度が低下していたことから、このシナプス減弱は、少なくとも部分的にはシナプスの消失によって起こっていることが示唆された。

 次に、筆者らはこのシナプス減弱のメカニズムを調べている。
 薬理学的検討により、このシナプス減弱にはL型Ca2+チャネルが必要であるが、AMPAR、NMDARによるシナプス伝達や細胞の発火は不要であることが示された (Fig. 3, 4)。さらに、遺伝学的手法によりシナプス減弱にCaMKK/CaMK4経路が必要であるが、CaMK2は不要であることも明らかとなった (Fig. 6, 7)。
 一方、AMPAR性EPSCの減弱には新規のタンパク合成および転写が必要であるが、NMDARのそれについては不要であることが分かった (Fig. 5)。これは、AMPARとNMDAR性伝達の減弱が別の機構により担われていることを示唆する。またKOマウスを用いた実験から、AMPAR性の減弱にはGluR2サブユニットが必要であるが、これはNMDAR性の減弱に不要であることが示された (Fig. 9)。


 以上より、神経活動レベルの上昇のsensingは細胞レベルで行われていること、それにはL型Ca2+チャネル、CaMKK、CaMK4が必要であること、またその下流の経路が多岐にわたっていることが示された。