アクチンネットワークはLTPにおけるsynaptic taggingに必要

先日の扁桃隊で、HAREさんから「もっと電気生理を読もう!」というお話があったので、電気生理っぽい論文を選んでみました。


Interfering with the actin network and its effect on long-term potentiation and synaptic tagging in hippocampal CA1 neurons in slices in vitro.
Ramachandran B, Frey JU.
J Neurosci. 2009 Sep 30;29(39):12167-73.
Interfering with the Actin Network and Its Effect on Long-Term Potentiation and Synaptic Tagging in Hippocampal CA1 Neurons in Slices In Vitro | Journal of Neuroscience



まず、“synaptic tagging仮説”の説明から。
ある種の刺激は、活性化したシナプスに一時的に“tag”を付加し、また、plasticity-related proteins(PRP)を合成します。TagとPRPが相互作用し、early-LTPをlate-LTPに変換すると考えられます。


筆者らは、海馬CA1でLTPを誘導し、アクチンに注目してsynaptic taggingの研究をしました。


手法:ラット海馬のスライス標本で、apical dendriteの2か所(S1とS2)に刺激電極を置き、Field EPSPを記録。weak tetanization protocol(WTET)でearly-LTPを、strong tetanization protocol(STET)でlate-LTPを誘導しています。
アクチンの関与は、2種類のアクチン重合阻害剤(latrunculin Aとcytochalasin D)を用いて検証しています。



主な結果は以下の通りです。
・ アクチンネットワークはL-LTPの維持とE-LTPに必要。(Fig1,2)
・ アクチン重合は、taggingに必要であるがPRP合成には必要ない。(Fig3,4)



2つ目の結果に関して、ストーリーを少し説明すると…
・ STETはtaggingとPRP合成を引き起こし、WTETはtaggingのみを引き起こします。
・ S1へのSTETの1時間後にS2にWTETを与えると、S2で(E-LTPではなく)L-LTPが誘導される。<=WTETによってS2にタグが付いて、STETによって合成されたPRPと相互作用するため。(Fig3 A)
アクチン重合を阻害するとS2でのL-LTP誘導は起こらない。(Fig3 B,C)
・ S1へのSTETの後にアクチン重合阻害剤存在下でS2にSTETを与えると、S2でのL-LTPが維持されない。<=アクチン重合が阻害されたことによってS2でのtag付加が阻害されたから。(Fig3 D,E)
・ S1へのWTETの後にアクチン重合阻害剤存在下でS2にSTETを与えると、S1でのL-LTPが誘導される。<=S1でできたタグに、S2でできたPRPが供給され、相互作用するため。(Fig4)



Synaptic taggingに関して、アクチンに注目した研究はこれまでありませんでした。
今後は、アクチンがLTDにおけるtaggingにも関与するのかどうかや、E-LTPにアクチンがどのように関与するのかなどの研究が期待されます。
また、TagとPRPが相互作用した後、どんなメカニズムでE-LTPがL-LTPに変換されるのかも気になるところです。


Taggingについての論文は、自分で読んだのは初めてでしたが、似たような実験を組み合わせや順序を変えて繰り返すことで、着実に1つ1つ結論を出していく展開は読んでいて面白かったです。

Qoo