プレシナプスのNR2A受容体によりLTDが誘導される

前回に続いてNMDARとシナプス可塑性です。anさんに続いてプレシナプス性の可塑性でもあります。
Bidoret,C., Ayon,A., Barbour,B., and Casado,M. (2009). Presynaptic NR2A-containing NMDA receptors implement a high-pass filter synaptic plasticity rule. Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.

シナプス可塑性研究において、最も典型的なメカニズムとしてポストシナプスのNMDARが注目されてきた。
今回は小脳スライスの平行線維ープルキンエ細胞の経路においてプレシナプスのNR2A依存的にLTDが誘導されることを示している。

Fig.3.F.において免疫染色後に電子顕微鏡を用いて、プレシナプスの神経線維末端においてNR1やNR2サブユニットが発現していることを確認。ポストシナプスのスパインにはほとんど発現していないことを本文中に記載している。これがプレのNMDARだとするメインフィギュアだと考えられる。
Fig.2.の薬理実験からLTDがNR2A依存的であることを示し、Fig.4.でNR1,NR2Aを発現したHEK細胞を用いてNMDAR電流の不活化のkineticsが速いことを、LTDが高頻度刺激時に生じることのメカニズムとして提案している。

電気生理の実験なのに、免疫染色のFig.3.がメインフィギュアという、発想の転換もありかなと思いました。

追記1
前回の日記において、NR2A,NR2Bサブユニットの話で、NR2Aが
LTD、NR2BがLTPに関与しているのでは?と書きました。
今回の論文はその考えを支持する結果ではありますが、
IUPSでNR2Bではなく、NR2Aのブロッカーを投与してLTPがブロックされる
という報告(論文)がありましたので、NR2AもLTPに関与していると考えられます。
40〜50代の演者にNR2B依存的なLTPもあると思うんですが?と聞いてみたら、
そうなんですよねー、、、と困った表情でした。

追記2
フェンサイクリジン(NMDAR非選択的拮抗薬)の乱用により統合失調症様の症状
を示すこと、NR2B選択的拮抗薬が既存の抗うつ薬に治療抵抗性の患者に有効であることなど、
精神疾患とNMDARも深く関連している。
今後NMDARと精神疾患について、記憶とヘブ則のような妥当性のある可塑性モデル、
もしくは脳領域的・分子的メカニズムについての研究を期待したい。