カンナビノイドはmTORシグナルを介し、海馬長期記憶を調節する。

Cannabinoid modulation of hippocampal long-term memory is mediated by mTOR signaling
Emma Puighermanal1, Giovanni Marsicano2, Arnau Busquets-Garcia1, Beat Lutz3, Rafael Maldonado1 & Andrés Ozaita1

Nature Neuroscience
2 August 2009 | doi:10.1038/nn.2369

リンク:http://www.nature.com/neuro/journal/vaop/ncurrent/full/nn.2369.html#online-methods

概要
認知障害大麻使用の最も重要なネガティブな原因にあると知られている。マウス海馬において、CB1カンナビノイド受容体(CB1R: CB1 cannabinoid receptor)の活性化は一過性的に健忘特徴のテトラヒドロカンナビノール(THC:マリファナ活性成分)と関係する哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(ラパマイシンの細胞内標的であるキナーゼ) (mTOR)/p70S6K pathwayおよびタンパク合成機構を調節する。
mTOR遮断薬ラパマイシンあるいは、タンパク合成阻害薬アニソマイシンの非健忘投与量でTHCの健忘様効果が抑制されたことから、タンパク合成の新しいメカニズムを提示する。
さらに、薬理的手法および、遺伝子の方法を用い、THCの長期記憶障害は、GABAインタニューロンに発現するCB1Rと関与する。それは、健忘様効果、GABA-CB1Rノックアウトマウにおけるp70S6Kリン酸化の減弱および、NMDA遮断によるグルタミン酸作動性メカニズムと関与する。

背景:
1.カンナビノイド受容体
内因性のカンナビノイドシステム(ECS)は中枢神経系に広く役割を果たし、シナプス可塑性にも重要だと知られている。(Kano, M.et al. Endocannabinoid-mediated control of synaptic transmission. Physiol. Rev. 89,309–380 2009). CNSに主なカンナビノイド受容体であるCB1Rはプレシナプスに存在し、内在性と外因性カンナビノイドアゴニストを活性化し、抑制性および興奮性神経伝達を調節する。海馬において、CB1Rの活性は記憶形成および固定化を損害する。また、CB1Rsは主にGABA性のbasket cellに位置し、GABA遊離をコントロールする。さらに、CB1Rは少数の程度まで、グルタミン酸作動性に位置し、グルタミン酸遊離の調節を介し、神経保護作用に重要な役割を果たしている。(Monory, K. et al. The endocannabinoid system controls key epileptogenic circuits in the hippocampus. Neuron 51, 455–466 2006).

2. mTOR
mTORはセリン/トレオニンキナーゼで、PI3K/Akt pathwayの下流のターゲットとする。mTORは神経発達および、シナプス強度の長期記憶調節を含む多様な細胞プロセスを調節する。mTORは70-kDaリボソームタンパクS6キナーゼ(p70S6K)および、新核生物イニシエーションファクター4E結合タンパク(4E-BPs)をリン酸化する。T389におけるP70S6K のmTOR依存的なリン酸化は活性化する。その活性化には、ERK依存的なメカニズムを介し、T421/S424におけるp70S6Kのリン酸化が必要である。
mTORがタンパク合成のメカニズムの調節との関連は細胞内シグナルカスケードがシナプス可塑性および記憶プロセスに関与する。(Costa-Mattioli, M.et al. Translational control of longlasting synaptic plasticity and memory. Neuron 61, 10–26 2009; Richter, J.D. & Klann, E. Making synaptic plasticity and memory last: mechanisms of translational regulation. Genes Dev. 23, 1–11 2009).

結果
1.カンナビノイドがCB1Rへの作用により、mTOR経路を調節する。
Fig.1ab:  動物:CD-1 マウス, マウス海馬組織を用い、方法:免疫ブロット法
THC投与(3或いは10 mg/kg、i.p.)により、mTOR1/p70S6Kシグナルカスケードを調節される。
Fig.1c: 動物:CD-1 マウス, male CB1 恒常ノックアウトマウス(CB-/-)
     方法: 目的認知タスク
THC(10 mg/kg,i.p.)投与により健忘様効果は消失する。

次は、THCが誘発する健忘様効果はmTORシグナルに依存するかを調べた。
Fig.3a: 方法:目的認知タスク; THC(10 ㎎/kg)投与群に識別指数が著しく減少する。
Fig.3b: 方法:文脈認知タスク;  THC(10 ㎎/kg)投与群にすくみ反応時間が減少する。
     ラパマイシン(1mg/kg,i.p.5d)前投与により、THCの二つ海馬依存的なタスクにおける健忘効果を破壊する。
それらの結果から、THCがmTOR関連のシグナルにおける作用は、THC投与マウスの認知障害との関連を示唆した。
Fig.3c: 目的認知タスクを用い、タンパク合成阻害剤であるアニソマイシンにより、THCの健忘効果が破壊された。

最近、長期記憶障害がmTORシグナルの過剰な活性化および、たんぱく合成の不均衡との関連性が報告された。Ehninger, D. et al. Reversal of learning deficits in a Tsc2+/- mouse model of tuberous sclerosis. Nat. Med. 14, 843–848 (2008); Bolduc, F.V.et al. Excess protein synthesis in Drosophila fragile X mutants impairs long-term memory. Nat. Neurosci. 11, 1143–1145 (2008). カンナビノイドの治療上で、認知障害が重要な副作用である。そこで、カンナビノイド化合物の有害作用を防ぐことが新たな治療ストラテジーに有用だと考えられる。