コカインによる文脈依存的感作には側座核の一部の神経細胞が関与している

Targeted disruption of cocaine-activated nucleus accumbens neurons prevents context-specific sensitization. - PubMed - NCBI
Koya E, Golden SA, Harvey BK, Guez-Barber DH, Berkow A, Simmons DE, Bossert JM, Nair SG, Uejima JL, Marin MT, Mitchell TB, Farquhar D, Ghosh SC, Mattson BJ, Hope BT.

Nat Neurosci. 2009 Aug;12(8):1069-73. Epub 2009 Jul 20.

 側座核の活動した神経細胞のみを選択的に活動抑制することにより、コカインによる文脈依存的感作に関与する細胞集団(の一部)を特定した研究です。
方法:
行動試験 異なるコンテクストA,B を用意。Aでコカインを七日間投与し、Aとコカインの関係を学習させる。一週間休薬し、再びAでコカインを投与する。コカイン投与群はsalline 投与群に比べて、運動量が増加する。この運動量の増加をコカインによる文脈依存的感作の指標としている。
神経活動マーカー:FOS protein
神経細胞の選択的不活性化:c-fos-lacZ transgenic rat を用いた。このラットは、fos promoter の下流にlacZ があるため、fos 発現細胞はβgalを発現する。Daun02 というDaunorubicin(抗ガン薬、神経細胞の発火を抑制)のprodrug を投与した場合、βgal を発現している細胞内でのみdaunorubicin に変換されるため、fos 発現細胞のみを選択的に活動抑制できる。
結果:テスト時のcocaine 投与群のFos 陽性細胞の割合は4 % 程度(supplement fig.1)。Daun 02 投与群はvehicle 投与群に比べて運動量が減少し、βgal 陽性細胞の割合も減少していた。(fig.3)
コントロール実験:induction 時にcontextB を用いた場合はdaun02 の効果なし。(context specific fig.6)

今回の実験で用いられた遺伝子改変ラットは、他のタスクにも応用可能である。最近、Selective erasure of a fear memory.Han JH, Kushner SA, Yiu AP, Hsiang HL, Buch T, Waisman A, Bontempi B, Neve RL, Frankland PW, Josselyn SA.

Science. 2009 Mar 13;323(5920):1492-6.で一度活動した細胞集団を選択的脱落させることで、記憶痕跡の一部をに担う神経細胞集団を明らかにした研究がありました。この実験では、扁桃体外側核においてArc 陽性細胞をCREB 強制発現によりコントロールしたことがミソですが、この方法が他の脳部位やタスクに応用可能かはまだわかりません。その点で、今回のラットは、他のタスクや脳部位でも使えると考えられます。
今回の研究のような、特定の細胞集団と行動の因果関係を直接示す研究がこれからどんどん出てくるでしょう。のんびりして居れません。