発達期におけるextinction の様相はadult のものと異なる。

夏も近づいてきましたね。7月も頑張りましょう。
今回紹介するのはこちらの論文です。

The Effect of Temporary Amygdala Inactivation on Extinction and Reextenction of Fear in the Developing Rat: Unlearning as a Potential Mechanism for Extinction Early in Development

Jee Hyun Kim and Rick Richardson, The Journal of Neuroscience, 2008

現在、恐怖記憶の消失は元の記憶の「消去」ではなく、元の記憶の発現を抑えるような競合的な記憶の「学習」によるものだという考え方は広く受け入れられています。しかしながら近年、発達早期(17日齢)におけるextinctionは新規学習によるものではない、といった報告もいくつかなされてきています。
そこで筆者らは、17日齢と24日齢のラットを用いてextinction training 時に一時的に扁桃体を不活性化することで、発達期におけるextinction の神経基盤を明らかにしました。
なお、24日齢でのextinction の神経基盤はadult なラットと一致するという知見があり、ここでは17日齢を「発達期」としています。

その結果、以下の結果が得られました。

① extinction training直前にブピバカイン(Naチャネルブロッカー)を投与した群において、翌日のテストで
 ・24日齢 … Saline群よりもfreezing時間が長い (Fig.2A)
       (=extinctionされていない)
 ・17日齢 … Saline群よりもfreezing時間が長い (Fig.2B)

② 再度条件づけを行い、reextinctionの直前にブピバカインを投与した群において、翌日のテストで
 ・24日齢 … Saline群とfreezing時間変化なし (Fig.3C)
 ・17日齢 … Saline群よりもfreezing時間が長い (Fig.4C)

即ち、扁桃体は発達段階に関わらずextinctionに関与するるものの、reextinctionではその寄与に差が見られるという事がわかりました。

しかしながら、これでは実際にどの日齢でどの段階を踏むことが重要か分からないため、筆者らは更に、同じ日齢(16日齢)で条件づけを行った上で 1. 翌日(17日齢)にextinction→26-28日齢で再条件付け、extinction、test/2. 24日齢まで育ってからextinction→26-28日齢で再条件付け、extinction、test という群を設けて実験を行いました。
その結果、

1. 最初のextinctionを17日齢で行った群では、reextinction時間のブピバカイン処置でfreezing timeが有意に長い (Fig.5B)
2. 24日齢で行った群では、freezing timeに差が見られない

という結果が得られました。
即ち、最初のextinctionさえ早ければreextinctionは扁桃体非依存的に起こる、という事が分かりました。

まとめると、「発達期におけるextinction」が、扁桃体依存的にその後の「reextinction」に深く関与し、これはadultのものと様相が異なる、という事になりました。

これを利用できさえすれば、幼いころのトラウマをextinctionどころかeraseできるだろう、と筆者たちは締めくくっています。

extinctionのタイミングでその後の病態が変わるというのは非常に興味深い話ですし、一般的に幼い頃の記憶が後の病態を悪化させることが多い精神的な疾患の治療に役立つようになれば良いと思いました。

まとめる力が足りず、長文になってしまって申し訳ありません。

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