新しいPTSD様モデル

こんにちは、E.T.です。ご無沙汰しておりました。
今回紹介する論文はこちら。
Glucocorticoids Can Induce PTSD-Like Memory Impairments in Mice
Kaouane N, Porte Y, Vallee M, Brayda-Bruno L, Mons N, Calandreau L, Marighetto A, Piazza PV, Desmedt A.CNRS UMR 5228, Centre de Neurosciences Integratives et Cognitives, 33405 Talence, France.
Science. 2012 Mar 23;335(6075):1510-1513. Epub 2012 Feb 23.
(本文)
(suppl)

PTSDはトラウマへの記憶増進や、適切な文脈に対する恐怖の制御ができなくなる記憶障害に特徴があります。論文では臨床的な指標にもかかわらず無視されてきた後者の特徴に注目しています。
まず、筆者らはPTSD様モデルを作製しました(Fig.1)。音(cue)提示直後にショックを与えたpredicting-cue groupは音とショックを連合学習するが文脈とは連合学習されず、音がショックとは関係なく提示されるpredicting-context groupでは文脈とショックの連合学習をするが音とはされない(A)。グルココルチコイドを海馬に恐怖条件づけの後に投与すると、predicting-context groupではショックが強いと音に対して恐怖反応を示し、文脈に対する恐怖は減弱した(B)。また、cueと似た音にも恐怖反応を示すが、全く異なる音には恐怖反応を示さない(C)。このマウスは文脈を、恐怖を正しく予測するものとして連合学習できなくなり、普通の条件下で恐怖を予測しない手がかり対して恐怖反応を示すようになったという点で、PTSD様の記憶障害を生じているといえます。
CORTではなくストレス(拘束+強制水泳)を与えても同様のPTSD様の記憶障害が生じ(Fig.2A)、血漿中CORT濃度はストレスで強いショックのみよりも有意に上昇していた(Fig.2B)。
恐怖条件づけ直後に海馬に投与するCORT濃度を振ってみると、ショック強度が強いと濃度依存的にPTSD様記憶障害が生じた(Fig.2C)。
連合して学習するべきもの(音と文脈)の選択には海馬と扁桃体の回路が関係しているはずです。最後に、海馬と扁桃体のc-Fos発現を調べました(Fig.3)。predicting-context groupは海馬へCORTを投与すると背側CA1と腹側DGでc-Fos発現量が減少し、右扁桃体では増加しており、predicting-cue groupでのc-Fos発現パターンと類似していた。
こうしたデータはげっ歯類のPTSD様の記憶障害を提示していて、PTSDの病理学的、生理学的な条件づけのメカニズムの解明に寄与すると思われます。
E.T.