海馬のシナプス可塑性は左右の半球で非対称である

こんにちは、3です。更新が遅くなり申し訳ありません。
今回僕が紹介する論文はこちら。


Hemisphere-specific optogenetic stimulation reveals left-right asymmetry of hippocampal plasticity.

Kohl MM et al. Nat. Neurosci. 14(11):1413-5. 2011.


左右の半球が機能や構造面で非対称性を示すことはよく知られています。そして近年、海馬において分子レベルでも非対称性があることが明らかとなりました。右半球のCA3野から投射を受けているCA1錐体細胞のスパインには、左半球から投射を受けているものに比べて、多くのGluR1 (GluA1) サブユニットが存在し、逆にNR2B (GluN2B) サブユニットは少ないのだそうです。本論文はそれを受けて、海馬CA3-CA1シナプスの可塑性に非対称性があるのかをoptogeneticsにより調べたものです。結果、左半球のCA3野から投射を受けているCA1シナプスは、LTPを生じやすいということが分かりました。以下がまとめです。


Camk2α::Creトランスジェニックマウスの片側のCA3野に、Cre-loxPシステムを利用してチャネルロドプシン2 (ChR2) -eYFPを局所的に発現させる。ChR2が機能的であることを確認 (Figure 1) した後、急性スライスでspike-timing dependent LTP (t-LTP) の誘導に左右差があるか否か検討している。t-LTP誘導刺激 (プレの線維の光刺激/電気刺激と、それに5-10 ms遅れてのポスト細胞の発火のペアリング100回) を行ったところ、左半球のCA3野にChR2を導入されたマウスからのスライスでは、シャッファー側枝 (CA3→同側CA1) 、交連線維 (CA3→反対側CA1) いずれにおいても、光刺激により誘起されるEPSPが増強した (Figure 2 a-c) 。一方、右半球のCA3野にChR2を導入されたスライスでは、t-LTPは誘導されなかった (Figure 2 d-f) 。したがって、CA3-CA1シナプスにおいて、そのシナプスが左右いずれのCA3野から入力を受けるかにより、LTP誘導に差がある。電気刺激によっては、ChR2導入部位、刺激する線維によらずt-LTPが誘導された。
次に筆者らは、NMDARに左右差があるか否か検討している。光刺激によりNMDAR/AMPAR比を調べると、左右差はなかった (Figure 3 a) 。しかし、NR2Bサブユニット選択的な阻害薬、Ro25-6981に対する感受性は、左半球のCA3野から投射を受けるCA1シナプスの方が大きかった (Figure 3 b) 。また、左半球のCA3野にChR2を導入された群において、Ro 25-6981処置下では、光刺激によるt-LTPは誘導されなかった (Figure 3 c) 。よって、LTP誘導の左右差は、NR2B-containing NMDARの差により説明できる。


以上より、CA3-CA1シナプスにおいて、t-LTP誘導にはCA3の位置により左右差があり、それはNR2B-containing NMDARの違いにより説明できることが明らかとなった。


NR2Bサブユニットは、CaMKIIと直接associateすることなどから、LTP誘導への関与が指摘されている分子です。このNR2Bの量は、皮質において経験依存的に減少していくことがよく知られています。それを基にすると、海馬の活動に左右差があることが本論文の結果につながる、という可能性を考えることができます。しかしもう少し思考を進めて、「なぜそもそも活動に左右差があるのか」ということを考えると、それは遺伝子がコードしているように思えて、なんだ結局遺伝子か、という気分になりました。