こんにちは、ヅカです。

今回はこちらを紹介します。
A standardized protocol for repeated social defeat stress in mice
Sam A Golden, Herbert E Covington III, Olivier Berton, Scott J Russo
Nature Protocols 6,1183–1191(2011)
doi:10.1038/nprot.2011.361 Published online 21 July 2011

またsocial defeatですみません。でもこれからこの実験系を使うので、少しでも知っておいてもらえたら嬉しいです。

気分障害はメジャーな疾患ですが、うつ病の動物モデルを作ることは課題であり続けています。拘束ストレスやフットショックストレスモデルもうつ様行動の研究に役に立ってはきましたが、うつ病の分子メカニズムがあくまで推定されたものであるため、抗うつ剤の開発においては限界が叫ばれています。とくに気分障害などではストレスに対して個人の応答性が違いますが、これを再現したり理解したりするのが困難でした。

社会的挫折ストレスは広く哺乳類において感情的行動に変化をもたらすことが知られていますが、これをマウスに初めて適用してsocial defeat stress実験を行ったのが、先日ここで紹介した論文です。social defeatモデルはストレスに対する個々の反応性の違いを検出でき、種々の妥当性を兼ね備えています。この実験系について述べたのが今回のプロトコール論文です。

具体的手順は以下の3つのステップに分かれています。

1、CD1マウス♂の4カ月齢を購入し、3日かけて確かな攻撃性を持っているものを選抜します。選抜されたマウスは個別に飼われ縄張り意識が育てられます。

2、defeatされるC57BL/6Jマウス♂7週齢は、10日連続で、1日1匹ずつ計10匹の異なるCD1マウスと同じケージに入れられdefeatを受けます。各日、10分間直接的に攻撃を受けた後、小さな穴の開いた透明な仕切りで隔てられ視覚・嗅覚的接触を24時間受け続けます。

3、open-field arenaでテストをします。arenaの一端に、金網に閉じ込められた新規のCD1ターゲットマウスを置き、反対側にC57BL/6Jマウスを離して150秒行動を見ます。ターゲットマウスがいるときといないときの、C57BL/6Jマウスが interaction zone(ターゲットを置く位置に近いzone)にいる時間の比などを結果の指標とします。

結果、defeatされた群ではコントロール群に比べinteraction zoneにいる時間が短くなっています。挫折を繰り返し受けたことで、新規のマウスに対しても接触をさけるようになる(avoidance)ということです。

面白いのが、すべてのマウスでavoidanceが起こるわけではなく、起こる感受性マウスと起こらない耐性マウスに分かれるということです。さらに感受性マウスのみが、代謝障害や低いスクロース選択性を示すため、うつ病のいいモデルではないかと注目されています。長期の抗うつ剤投与でavoidanceが改善するというのも注目に値します。耐性マウスのみでみられるクロマチンモデリングや転写因子活性化、感受性マウスのみでみられるシナプス再構成が見つかってきているらしく、うつ病の分子メカニズムの理解にこのモデルが役立つと期待されています。

具体的な研究内容は検討中ですが、多くの妥当性を兼ね備えていると思われるこのモデルで新しいことができるのが楽しみです。

ヅカ