NMDAR-mEPSCの遮断により、単一シナプスレベルでNR1、NR2Bサブユニットの集積が起こり、LTP誘導閾値が低下する

 こんにちは。3です。今回紹介する論文はこちら。

 Metaplasticity at Single Glutamatergic Synapses.
Ming-Chia Lee, Ryohei Yasuda, and Michael D. Ehlers. (2010). Neuron 66, 859-870.



 神経回路が最適な機能を発揮するには、単なるシナプス可塑性だけでなく、シナプス可塑性の閾値を調節する恒常的なメカニズムであるメタ可塑性が必要であると考えられています。しかしメタ可塑性に関する知見は少なく、特にメタ可塑性は単一シナプスレベルで起こりうるのか、起こるとしてその分子メカニズムは何なのかということは知られていません。本論文は、シナプス伝達の遮断によりNR2Bサブユニットを含むNMDA受容体 (NMDAR) 数が単一スパインレベルで増加すること、この現象が活動電位非依存的な伝達の遮断により起こること、伝達が遮断されたシナプスにおいてLTP誘導閾値が低下することを示しています。以下まとめ


 E18ラットより作成した海馬培養細胞を使用。DIV 11-12においてレンチウィルスによりsynaptophysin-GFP (プレシナプスマーカー) -IRES-TeNT (破傷風毒素軽鎖) を一部の細胞に導入。TeNTは伝達物質放出を抑制するため、GFP陽性のシナプスは伝達が遮断された状態である (以下silenced synapseと呼ぶ) 。
 DIV 19-22において、グルタミン酸アンケージングによるEPSCを測定すると、silenced synapseはそうでないもの (active synapseと呼ぶ) に比べNMDAR性EPSCおよびNMDAR/AMPAR比が有意に高かった (Figure 1) 。抗体染色法によりNMDARサブユニット量を測定すると、silenced synapseにおけるNR1およびNR2Bサブユニット量が多く、NR2Aは変わらなかった (Figure 2) 。また、silenced synapseはNR2B-containing NMDAR選択的阻害薬であるifenprodilに対し高い感受性を示した(Figure 4) 。silenced synapseの近傍のシナプスではこのような傾向は見られなかった。以上より、シナプス伝達の遮断により、NR1,NR2Bサブユニットの増加が単一シナプスレベルで生じることが明らかとなった。
 次に、TTX (2 μM)、NBQX (10 μM)、あるいはAP5 (50 μM) 存在下で培養を行うと、AP5処置群でsilenced synapseとactive synapseの間にNR1、NR2B量の差が見られなくなった (Figure 3) 。TTXとNBQXはそれぞれ無効であった。よって、活動電位非依存的なNMDAR性の伝達が遮断されることが、NR1、NR2B量の増加を引き起こすことが分かった。
 NR1/NR2B NMDARは、電流の減衰が遅いことや、CaMKIIと強い相互作用をすることで知られる。そこで、筆者らはLTPについて調べている。まず、Ca²⁺イメージングにより、silenced synapseではグルタミン酸アンケージング時のCa²⁺流入量が増加していることが分かった (Figure 5) 。また、閾値下のペアリング刺激 (グルタミン酸アンケージング+脱分極) によりLTP誘導およびスパイン肥大がsilenced synapseにおいて選択的に起こることが示された (Figure 5、6) 。

 以上より、NMDAR-mEPSCの遮断によりNR1、NR2Bサブユニットの集積が単一シナプスレベルで起こり、機能的、構造的な可塑性誘導の閾値が低下することが明らかとなった。


 感想。シナプス伝達の遮断しかしていないので、メタ可塑性とは言い切れないのではないかと思いました。