げっ歯類および霊長類のアルツハイマー病モデルにBDNFの神経保護効果

皆様、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
cottoncandyの2010年の初ブログ更新です。

今回紹介させていただく論文は去年のNature Medicineに掲載された
「Neuroprotective effects of brain-derived neurotrophic factor in rodent and primate models of Alzheimer’s disease」です。

Nat Med. 2009 Mar;15(3):331-7. Epub 2009 Feb 8.

Link: http://www.nature.com/nm/journal/v15/n3/abs/nm.1912.html

Nagahara AH, Merrill DA, Coppola G, Tsukada S, Schroeder BE, Shaked GM, Wang L, Blesch A, Kim A, Conner JM, Rockenstein E, Chao MV, Koo EH, Geschwind D, Masliah E, Chiba AA, Tuszynski MH.

[背景&概要]:
嗅内皮質における神経機能障害はアルツハイマー病の早期記憶に寄与する。BDNFは嗅内皮質で作られて、順行性的に海馬にトラフィキングする。
本論文では、嗅内BDNFの投与により、いつくかのアルツハイマー病(AD)モデル(変異体アミロイドマウス、加齢ラット、perforant path-lesionedラット、霊長類の猿)に対する神経保護効果を現わしている。
①アミロイドトランスジェニックマウス(TG)において、BDNF遺伝子デリバリーが発症後に投与することによって、シナプス損傷をリバースし、一部の異常な遺伝子発現を正常に回復させ、細胞シグナルを改善できて、学習と記憶も回復させた。これらの結果はアミロイドプラーク調節に非依存である。
②加齢のラットにおいて、BDNF注入は認知減退をリバースし、遺伝子発現における年齢と関連する撹乱を改善し、細胞シグナルも回復させた。
③生体ラットおよび霊長類において、BDNFはlesion誘発の嗅内皮質の死を保護した。
加齢の霊長類において、BDNFは神経萎縮をリバースし、年齢と関連する認知障害を回復させた。
まとめると、これらの結果から、BDNFは、アミロイド-非依存的なメカニズムを介し、AD関連の神経回路網に対し、保護効果があることが示唆された。BDNF治療デリバリーがAD治療のストラテジーになりうることが示唆された。

[仮説]:BDNF遺伝子を嗅内野へのデリバリーが多様なADモデルにおける嗅内皮質および海馬の変性を改善する。

[結果1]. BDNFはAPP-トランスジェニックマウス(TG)における効果。
BDNF-GFPを発現するレンチウイルスベクターをTGマウス(6カ月:神経病理的な変性および細胞損傷が確立されたもの)の両側の嗅内皮質に注入する。一か月後、以下の試験を行った。
F1(a).モーリス水迷路試験では、TGBDNFマウスの空間記憶損傷が改善された。
F1(b).恐怖条件付け試験では、海馬依存(context)的な学習を測定したところ、TGBDNFはTG GFPマウスより不動が高かった。
F1(d).BDNFが海馬CA1-3およびDGにトラフィキングすることが確認できた。
F1(e,f).TGマウスの嗅内皮質とDGにおいて、BDNFはシナプス性のマーカーであるsynaptophysinを回復させた。
F1(g,h). BDNFデリバリーによって、ERKのリン酸化が増加した。
F1(i).BDNFデリバリー処置は嗅内皮質および海馬において、APP関連の遺伝子変異を回復した。

[結果2]. BDNFは加齢ラットにおける効果。
加齢ラット(24カ月)の内側嗅内皮質にBDNFを28日間注入し、
F2(a-d).空間学習と記憶が改善された。
F2(e,f).Western blotを用いて、加齢の認知障害ラットにBDNFの注入によって、嗅内のERKリン酸化は加齢の認知障害ラットと比べ、増加した。細胞生存のphosphoinositide-3 kinase-Akt 経路は、水迷路における年齢関連の障害と関係しない。
F2(h).BDNF遺伝子注入(GFPレンチウイルスと比較する)は嗅内皮質および海馬において、加齢関連の遺伝子変異を回復した。

[結果3]. BDNFは細胞生存における効果。
F3(a,b).初代培養嗅内皮質において、免疫染色法を用い、BDNFはAβ1-42誘発の神経細胞死を保護した。
In vivoでperforant path切断によって、嗅内皮質のlayerⅡに20%のニューロン死が誘発した。
F3(c-e).BDNFは細胞死を保護し、細胞萎縮を回復させた。
F3(f).BDNFは細胞生存経路のマーカーであるAKTのリン酸化の発現を増加させた。

[結果4]. BDNFは霊長類における効果。
サルの両側のPerforant pathに高周波lesionを行い、非人類の霊長類の嗅内皮質神経細胞死のモデルが作られた。BDNFを発現するレンチウイルスベクターを右の嗅内皮質に注入した。Lenti-GFP或いはno virusは左の嗅内皮質に注入した。
F4(a,b).Nissl 染色を用い、BDNFはlesion誘発の嗅内の神経細胞死を保護した。
F4(c-h).加齢で認知障害があるサルにおいて、嗅内皮質へのBDNF遺伝子デリバリーによって、BDNFタンパクは海馬にlenti-GFPと比べ、多く発現したことから、それの順行性のトランスポーターの機能が示唆された。
F4(g).視空間識別タスクでは、加齢サルBDNF投与群は非投与群より、視空間学習能力が改善された。

成長因子を中枢神経にデリバリーできる有効かつ安全な方法は今まで見つかっていなくて、成長因子の脳室注入方法は多くの細胞に至らなかった。そして、最近の臨床試験では、脳室注入或いは遺伝子デリバリーが使われている。
この論文では、二つの方法を有効に使われていた。この方法を生かし、人の嗅内皮質にBDNFのデリバリーをスケールアップすることが可能である。BDNFの効果は霊長類(サル)でも有効性が示されていることから、臨床上でのトランスレーションへの発展を期待できる。

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