恐怖条件づけ時、扁桃体の一部の細胞に条件刺激と無条件刺激が収束している

今回紹介する論文はFunctional imaging of stimulus convergence in amygdalar neurons during Pavlovian fear conditioning.
Barot SK, Chung A, Kim JJ, Bernstein IL.
PLoS One. 2009 Jul 7;4(7)Functional imaging of stimulus convergence in amygdalar neurons during Pavlovian fear conditioning. - PubMed - NCBI

恐怖条件づけなどの連合記憶は、条件刺激CSと無条件刺激USが同じ細胞に入力することで可塑的な変化が生じ、学習後にはCSのみで記憶が想起されるようになると考えられています。恐怖条件づけにおいて、BLAはCSとUSの両方の入力を受ける脳部位で、学習後にはCSに対する応答性が増大することが知られていましたが、実際にBLAの一つの細胞がCSとUSの入力を受けていることを示した研究はなかったので筆者らは、Arc catFISH 法でこれを検証しています。
ラットをchamberに入れて26分後にショックを与え、context (CS) による神経活動を細胞質のArc で、shock (US) による神経活動を核内Arc で検出しています。筆者らは、核内と細胞質の両方にArc を発現している細胞をCS とUS が収束した細胞であると主張し、このdouble の細胞を定量比較しています。解析脳部位はBLA と海馬体CA1,CA3,DGです。(DGはArc 発現のタイムコースが他の脳部位と異なっていたはず?)
条件づけ群と三群のコントロール群を用意しています。ショックを与えないcontrol群とchamber に入れてすぐにショックを与えるIS群と、十日間chamber に入れることでcontext の新規性が失われ、連合学習が障害されたLI群です。
まず活動した細胞の割合について。LI群では細胞質陽性細胞が他に比べて少なかったので、新規の環境ではより多くの細胞が活動するといえます。この傾向はBLA,CA1,CA3で観察されました。またBLAにおいてLI群は条件づけ群と同じタイミングでショックを受けているにも関わらず、核内陽性細胞が条件づけ群に比べて少なかったです。CA1,CA3ではそもそもショックによってArc 陽性細胞は増加しなかったです。この結果から筆者らはCA1,CA3は環境や新規性に関わる脳部位で、CSとUSが収束する部位ではないと主張しています。
BLAにおいてDouble の割合は条件づけ群が他の三群に比べて高い値を示しました。またショックにだけ反応した細胞 (Nucleaus only) の割合は条件づけ群とLI群に差がなかったことから、筆者らはこれらの結果はBLAの細胞にCSとUSが収束しているためだと主張しています。
ただ得られた結果から筆者らの主張ができるかは疑問です。条件づけ群は新規環境に入ったことで、BLAの細胞の活動性が上がり、ショックによるUS入力に対する反応性が増大したために陽性細胞数が増加したとも考えられます。(nucleus only の割合がLI と条件づけ群で差がなかったことは筆者の主張をある程度後押ししていると思います。)