急性ストレスによるPFCグルタミン酸伝達、ワーキングメモリー増強のメカニズム

今回紹介するのはこちら。
Mechanisms for Acute Stress-Induced Enhancement of Glutamatergic Transmission and Working Memory
EY Yuen et al. Mol Psychiatry. 2011 Feb 16

急性ストレスあるいはストレスホルモンがPFCにおけるグルタミン酸伝達に作用し、ワーキングメモリーや消去学習に影響を及ぼすことが知られていますが、そのメカニズム、特にNMDA、AMPA受容体への作用メカニズムについては深くは知られていません。
今回筆者らは、グルココルチコイド受容体(GR)によって活性化される最初期遺伝子serum- and glucocorticoid-inducible kinase(SGK)が増加、それにより受容体のトラフィッキングを担うsmall GTPase、Rab4が活性化、その結果NMDA、AMPA受容体のシナプス膜への移行が増加する可能性を示唆しています。

<以下、結果>
・20 minの強制水泳ストレスから1-4 hr、24 hr、5 days後にevoked NMDAR-EPSC、AMPAR-EPSC、GABAAR-IPSCを記録。1-4 hr、24 hr後のNMDAR-EPSC、AMPAR-EPSCが増強していた。また、これらの作用は、ストレス暴露30min前のGRアンタゴニストRU486投与(i.p.)により阻害された。(Fig 1 a-c、S2)
・PFCスライスに100 nM,20 min、コルチコステロン、デキザメタゾン(GRアゴニスト)、アルドステロン(MRアゴニスト)、CRFを処置。コルチコステロン、デキサメタゾン処置群においてNMDAR-EPSCが増強。また、コルチコステロンによる作用はGRアンタゴニストRU486共処置で阻害された。(Fig 1 d-f)
・培養PFCにコルチコステロン処置20 hr後、膜表面のNMDAR(NR2A、B)、AMPAR(GluR1)を免染にて定量樹状突起膜表面上におけるNR2A、B、GluR1量の増加がみられた。また、GluR1とシナプスマーカーPSD-95の共局在を定量シナプス膜上でのGluR1量が増加していた。(Fig 1 g-i)

・ストレス暴露後0 min、30 min、1 hr、2 hr後のPFCにおけるSGK1、2、3の発現をウェスタンブロットにより定量。ストレス暴露後1、2 hr後SGK1、3の発現量上昇がみられた。また、この作用はストレス暴露30 min前のGRアンタゴニストRU486投与(i.p.)により阻害された。(Fig 2 a-c)
SGKの基質との結合を阻害するSGK基質ペプチドTAT-SGKを処置。コルチコステロンによるNMDAR、AMPAR-EPSCの増強が阻害された。NMDAR、AMPAR-EPSC増強作用はAkt阻害剤V、p22/44 MAPK阻害剤PD98059処置によっては阻害されなかった。また、ストレス暴露30 min前にTAT-SGKペプチドをi.v.投与。ストレスによるNMDAR-EPSC、mEPSC amplitude増強作用が阻害された。(Fig 2 d-h)

・培養PFCにおいて、siRNAを用いてSGK1、2、3をそれぞれノックダウン。コルチコステロン処置によるNMDAR、AMPAR-EPSC増強作用はSGK1、3 siRNA処置によって阻害された。また、これらSGK1、3 siRNAによる阻害作用はSGK1、3のsiRNA抵抗性のサイレント変異体共処置によりレスキューされた。(Fig 3 a-e)

・siRNAを用いた実験はRab4、5、11についても行われ、Rab4 siRNA処置により、コルチコステロン処置によるNMDAR、AMPAR-EPSC、mEPSC amplitude増強作用が阻害された。また、この阻害作用はRab4のsiRNA抵抗性サイレント変異体共処置によりレスキューされた。(Fig 4)

GTP結合型(活性型)RAb4、5にのみ結合することが知られているRabaptin-5によりRab4の活性を評価。コルチコステロン処置後、Rabaptin-5結合型Rab4、5を定量したところ、Rabaptin-5結合Rab4においてのみ発現増加がみられ、この作用はTAT-SGKにより阻害された。(Fig 5 a, b)
・コルチコステロン処置によるシナプス膜上GluR1発現量(PSD-95、GluR1の共染色)増加はTAT-SGKペプチドにより阻害。また、GluR1発現量増加はRab4 siRNA処置によっても阻害された。(Fig 5 c-f)

・PFCが担うワーキングメモリーを評価するタスクT-mazeを行ったところ、ストレス暴露によるタスク成績向上はTAT-SGKペプチドi.v.投与により阻害された。(Fig 6)

以上から、ストレス暴露によるGR活性化→SGK1、3発現が増加→Rab4活性が上昇→NMDAR、AMPARの膜上へのトラフィッキングが増加。といった急性ストレスによるグルタミン酸伝達増加のメカニズムのひとつが示唆されたことになります。

急性ストレス暴露前の処置による効果しか検討しておらず、治療への応用可能性は不明ですが、GR活性化からNMDAR、AMPAR受容体トラフィッキングまでの一連のメカニズムが示唆されている点で興味深いです。
また、海馬CA1では急性ストレスによって増強が見られたのはAMPAR-EPSCのみである(S1)点も要注意です。

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