母から子への恐怖の伝達
Intergenerational transmission of emotional trauma through amygdala-dependent mother-to-infant transfer of specific fear.
Debiec J, Sullivan RM.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Jul 28. pii: 201316740.
ラットで母親から子供への恐怖の伝達を評価するモデルをつくり、その伝達のメカニズムを調べた論文。
におい条件づけを行った母親ラットを子供のいるケージに入れ、CSを提示する。7日後、子供にY迷路テストを行わせ、CSのにおいと慣れたにおい(床じきのにおい)のどちらを選択したかで子供への恐怖の伝達を評価している。(Fig 1A)
におい条件づけを行った母親といた子供は、コントロール群に比べてY迷路テストで高い恐怖の伝達を示した。(Fig 1B, C)
今度は母親と子供を別々のケージに入れ、においだけが伝わる状態にした。すると、恐怖を感じている母親のにおいとCSを曝露された子供のコルチコステロン血中濃度が上昇し、Y迷路テストでは高い恐怖の伝達を示した。(Fig 2B, C)
また、コルチコステロンの合成阻害剤を投与すると、Y迷路テストにおける恐怖の伝達は減弱した。(Fig 2 D)
母親から子供への恐怖の伝達後のc-Fos発現を調べたところ、扁桃体と嗅球で発現が上昇していた。主嗅球尾側の糸球体層での発現上昇が顕著であったことからGruenberg ganglion-necklace gromeruli(GG-NG)経路の必要性を検討した。
子供のGGの軸索切断を行った群では、母親から子供への恐怖の伝達が阻害されたが、におい条件づけによる恐怖は障害されなかった。(Fig 5A)
また、ムシモールで扁桃体を抑制した場合にも母親から子供への恐怖の伝達は阻害されたことから、母から子への恐怖の伝達は扁桃体依存的であることが示された。(Fig 5B)
母親がいなくてもにおいだけで恐怖が伝わるのは興味深いです。
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肥満女性でみられる食と関連した報酬学習の障害
Impaired Associative Learning with Food Rewards in Obese WomenZhihao Zhang, Kirk F. Manson, Daniela Schiller, Ifat Levye
Curr Biol. 2014 Jul 15. pii: S0960-9822(14)00676-9.
一般女性と肥満女性(BMI>30)の連合学習成績を比較。
・肥満女性は食べ物(peanut M&M)を報酬とした場合の連合記憶の成績が一般女性よりも低い。お金を報酬とした場合、一般女性と肥満女性の記憶成績に差は認められない(Fig. 2)。
・肥満女性の食べ物を報酬とした連合記憶の成績はBMI値と負の相関がある(Table. 1)。
・この肥満女性でみられる食べ物を報酬とした連合学習の障害は男性ではみられない(Fig. 2)。
このことから、肥満女性では食べ物に関連した報酬学習特異的な経路が障害されていることが推測される。
2nd
TRPチャネルを介した湿度の知覚
Drosophila hygrosensation requires the TRP channels water witch and nanchung.
Liu L, Li Y, Wang R, Yin C, Dong Q, Hing H, Kim C, Welsh MJ.
Nature. 2007 Nov 8;450(7167):294-8.
ハエ。湿度を感じる機構はあまり理解が進んでおらず、この論文以外ではゴキブリ、線虫でその機構が発見されている。前報により、湿度の知覚に機械感覚が関与していることが示唆されているため、transient receptor potential (TRP) とdegenerin/epithelial Na+ channel (DEG/ENaC) ファミリーに着目し、スクリーニングをおこなった。
・行動によるスクリーニング(湿度~100%と湿度~0%のチューブを提示した場合、通常12-30%のハエが湿ったチューブに移動。)の結果、TRPチャネルであるnanchungとwater witchを同定。ハエの触覚においてnanchung、water witch発現ニューロンが存在(Fig. 1)。このニューロンの抑制により、湿度への指向性が変化(Fig. 2)。
・乾燥した空気、または湿った空気に対する触覚ニューロンの応答性を記録。ドミナントネガティブまたはRNAiでnanchungの機能を抑制すると乾燥した空気への応答性が減弱。一方で、water witchの機能を抑制すると湿った空気への応答性が減弱(Fig. 3)。
・nanchung、water witch発現ニューロンは中枢神経系へと投射を送っており(Fig. 4)、そこから行動などの変化を引き起こすと考えられる。
以上の結果から、ハエの触覚に存在するTRPチャネルの1つであるnanchungが乾燥した空気を、water witchが湿った空気を知覚し、中枢へと情報を伝える。
湿度の知覚には温度知覚経路の関与も示唆されており(Russell et al., 2014, PNAS)、湿度と温度知覚の関係が気化熱以外の観点からも説明できるのか、興味をそそられます。
2nd
怪我による警戒心アップ
Nociceptive Sensitization Reduces Predation Risk
Robyn J. Crook, Katharine Dickson, Roger T. Hanlon and Edgar T. Walters
Curr Biol. 2014 May 19;24(10):1121-5.
怪我による防衛行動の鋭敏化は多くの種に共通してみられ、強力な選択圧がかかったことが容易に推測できる。これを実験室レベルで確かめた論文。
モデルとしてイカを使用。イカの第3の足の先っぽを切断し、捕食者(ブラックシーバス、スズキの親戚)に対する反応を観察。直径360cm、深さ90cmの環境。
・警告反応などといった捕食者の存在に対する反応が怪我群で鋭敏化。局所麻酔により痛みを感じなくさせた場合、この鋭敏化は消失する(Fig. 2)。局所麻酔のみの投与は無傷なイカと同程度。
・怪我の痛みを局所麻酔でなくした場合、生存率が19%に。怪我による防衛反応の鋭敏化により生存率は45%にアップ。無傷な場合は75%(Fig. 3)
怪我による生存コスト、防衛反応の鋭敏化の利益を数値化した点がポイントかと
2nd
神経活動によるオリゴデンドロサイトの分化と、その行動変化への関与
Neuronal activity promotes oligodendrogenesis and adaptive myelination in the mammalian brain.
Science 2014 May 2
Gibson EM, et al.
神経活動に依存してオリゴが分化することはvitroでは言われていたし、経験に依存してミエリンや白質が増減することはヒト及び動物でわかっていました。
足りなかった部分をつないだような論文です。
・THy1::ChR2マウス、右M2領域を光刺激(左周回歩行から刺激成功を判断できる)。
・刺激3時間後、EdU標識増殖細胞がM2(図1)、脳梁(図2)で増加。その多くがオリゴ系譜細胞、残りは神経前駆細胞。
・このとき、外傷によるミクログリアの活性化の程度は野生型と同程度(図3)。
・野生型では、増殖細胞は刺激24時間後もまだ増殖能を持つのに対しTHy1::ChR2マウスでは増殖能を持たない(→分化を示唆)(図4)。分化に必要なエピジェネティックな指標も、分化を示唆(図4)。
・上記細胞は4週間後に成熟オリゴへ分化していた(図5)。
・また、ミエリンが厚くなっていた(図6)。
・このタイミングで、運動機能(limb swing speed)が向上(図7)。
・オリゴの分化を止めるというHDAC阻害物質で、光刺激による分化、ミエリン化、行動変化は全て抑制された(図5〜7)。
刺激した回路周辺のオリゴが増えてミエリン化、そして行動変化に必要であるという主旨。
オリゴはまず分化が起こり、その後隣接するオリゴが分裂すると言われているので、解釈が複雑ではあります。でも
行動に関連してミエリンが可塑的に変化する→オリゴの供給が滞れば行動(精神)異常が生じる
と夢見るくらいには充分な論文だと思いました。
でっしー。
アルコール摂取によるパートナーへの嗜好性の変化
Drinking alcohol has sex-dependent effects on pair bond formation in prairie voles.
Anacker AM1, Ahern TH, Hostetler CM, Dufour BD, Smith ML, Cocking DL, Li J, Young LJ, Loftis JM, Ryabinin AE.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Apr 7.
アルコールの摂取がプレーリーハタネズミの社会性に与える影響を検討。プレーリーハタネズミは基本的に一夫一妻制を採用する種(たまに浮気する)。
・アルコールを摂取した状態で(飲み水に混ぜて10%に)、♀と♂のつがいを形成させる。その結果、♀の夫への嗜好性が増強。♂の妻への嗜好性はむしろ下がる(Fig 1)。
・アルコール摂取が交配行動、運動量、攻撃行動などに影響を与えない(Fig 2)。このことから、アルコールの効果はつがいを形成する段階に影響を及ぼした結果であると主張。
・つがい形成に関与するとされる神経ペプチドY (NPY) 陽性繊維の密度がアルコールの摂取により変化(Fig 3)。
これらのことから、アルコールの摂取によるパートナーへの嗜好性の変化には性差があることが明らかとなった
ついついヒトのパターンに置き換えたくなる
2nd
サーカディアン依存的な聴覚障害
TrkB-Mediated Protection against Circadian Sensitivity to Noise Trauma in the Murine Cochlea.
Meltser I, Cederroth CR, Basinou V, Savelyev S, Lundkvist GS, Canlon B.
Curr Biol. 2014 Mar 17;24(6):658-63
騒音などにより感覚有毛細胞が損傷を受け、不可逆的な難聴に陥った状態、音響外傷に関する論文。
・マウス。暗期に過剰騒音に暴露すると不可逆的な聴覚障害を引き起こす。しかし、明期に暴露した場合は回復する (Figure 1)。
・蝸牛においてPer2 遺伝子がサーカディアンリズムを有しており(明→暗時間帯前後で発現が上昇)、騒音への暴露によりこのリズムが乱れる (Figure 1)。
・明期に騒音暴露した群ではBDNF発現が上昇しており、Per2遺伝子のサーカディアンリズムはTrkBにより制御されている (Figure 2)。TrkB の活性化により、暗期騒音暴露による聴覚障害がレスキューされる (Figure 3)。
騒音暴露により暗期にのみ聴覚障害が生じるのは明期のような騒音後のBDNF発現が生じないからとの考察。サーカディアン依存的な聴覚障害がある、その一点で興味が魅かれる論文
聴覚が最近話題になっていたので
2nd