スパインに関する論文です。

Arc regulates spine morphology and maintains network stability in vivo.
Peebles CL, Yoo J, Thwin MT, Palop JJ, Noebels JL, Finkbeine

In vivoにおいてArcがスパインにどのように作用するのかを調べた論文です。後半はてんかんについての考察をしており、また考察の材料も、今までの論文の引用が多く、新しい事はあまりありませんでしたが、前半のArcの働きについて紹介したいと思います。てんかんについての考察が多く割かれている理由としては、Arcが痙攣により、その遺伝子発現が上昇する事により発見されたため、てんかんとのつながりが大きい事があります。

 結果
thin spineの割合を増やしスパイン密度を上昇させ、これはAMPA受容体を介する。
Thin spineでのGluR1の内在化を減少させる
Arcの減少はてんかん様神経回路異常興奮を導く

 Arcホモノックアウトの場合、thin spineが顕著に減少し、マッシュルーム型スパインが増加することが示され、これはCA1とDGで観察されました。また、いくつかの論文と今回の論文の図1と3でthin spine と mushroom spineのスパイン全体における割合が異なっているのは、in vitro in vivoの違いだと考察しています。 In vivoの方がmushroom spine が多く、thin spineが少ない傾向にあります。
またin vivoの先行研究(reference 18の論文)との矛盾(この論文ではスパイン密度の低下は観察されていません)はスパイン測定と場所の違いだとしています。
 Arc過剰発現ではThin spine Filopodiaの増加とStubby spineの減少を引き起こした。
 スパイン形態に関与するとされるAMPA受容体エンドサイトーシスにはエンドフィリンとダイナミンとの相互作用により生じますが、スパイン形態に関わる際にはダイナミンが必要であることを示しました。表現型としてはThin spineの減少、マッシュルーム型スパインの増加というアーク過剰発現モデルとは逆となりました。
 GluR1の取り込みはアーク過剰発現によりthin spineで特異的に増加する事、GluR2では見られないことを示した。

 スパインの調べ方
樹状突起の主枝と二次枝を測定しており、距離などは記載していませんでした。
スパインの種類に関する分類は
thin spine  1µm以下(GFP蛍光)または0.75µm以下(ゴルジ染色)の頭部をもつ
mushroom spine  以上の頭部を持つもの
filopodia  頭部無しで1.5µm以上突出しているもの
上記のように分けています。

岩田ひろかず


 

  

スパインに関する論文です。

Reelin supplementation enhances cognitive ability, synaptic plasticity, and dendritic spine density
Justin T. Rogers, Ian Rusiana, Justin Trotter, et al.
Learn. Mem. 2011 18: 558-564

 今回の論文はReelinに着目した論文で、顕微注入により記憶成績の変化を調べています。またスパインの変化についても調べられていましたが、ゴルジ染色で画像自体、それほど綺麗ではありませんでした。しかし、Reelinは脳に広く分布していることから、重要なタンパク質なので、報告します。

 Reelinはシナプス可塑性や海馬依存記憶形成を調節する役割を持つ表面受容体の一つであるアポリポタンパク質のリガンドです。
 リーリンはシナプス可塑性、樹状突起形態、認知機能に重要な枠割があるといわれています。GABA性介在ニューロンから生産され、海馬や皮質全体で上記のような、樹状突起の形態、スパイン密度に関与しています。

これまでの研究でin vitroでは
リーリン処理をすると、樹状突起スパイン密度の増加、AMPA受容体の増加
リーリン処理20分以内で、LTPの増強を示す。(LTPの増強はCaの流れの促進、NMDA受容体のリン酸化を促進)
リーリン処理20分以上でAMPA受容体増加を示します。

今回の研究では、in vivoで行い
 リーリンは投与後15分程度という短時間で取り込まれること、そして3時間程度持続され、5日後には消失する事
 リーリン投与後、5日でスパイン密度の増加がCA1のapicalとbasal樹状突起で生じる事
In vitroで確認されたリーリン投与による変化がin vivoでも確認された事
リーリン投与後の行動観察では、不安や認知機能の変化は確認できなかった事
 空間的学習・記憶テストでは、リーリン投与群では明らかな成績向上が確認された事
 恐怖学習・記憶テストでは、フリージング時間が上昇した事
上記の事を明らかにしました。

 スパインに関連付けていうと、リーリンは投与後5日間で消失しますが、この間に変化したスパイン密度の変化は1週間、長い場合には数か月持続するそうです。
 スパインの調べ方はCA1の錐体細胞をapical とbasalに分けて、それぞれカウントしています。距離による分け方はしていません。測定した神経細胞は56個です。
 Fig4.5を見ると、リーリン投与によりbasalよりもapicalにおいてスパイン密度の上昇が大きくなっていますが、その理由はよくわかっていません。

岩田ひろかず

スパインに関する論文です。

Reduced Spine Density in Specific Regions of CA1 Pyramidal Neurons in Two Transgenic Mouse Models of Alzheimer’s Disease
Claudia Perez-Cruz,1 Marc W. Nolte,1 Marcel M. van Gaalen,1 Nathan R. Rustay,2 Annelies Termont,3 An Tanghe,3 Frank Kirchhoff,4,5 and Ulrich Ebert1
 今回は、アルツハイマーの症状をスパインレベルでみた論文です。トランスジェニックマウスを使用しており、写真は詳細ではないのですが棒グラフ上では、スパイン密度の変化が顕著に見えています。

実験モデルとしてamyloid precursor protein(APP)をトランスジェニックしたマウスを二つ使用しています。それぞれTg2576(swedith mutation)、APP/Lo(London mutation)です。これらのモデルはアルツハイマー型モデルとしてよく用いられているそうです。
 結果として
 Tg2576ではCA1錐体細胞の細胞体に近い部位の基底樹状突起のマッシュルーム型スパインの密度が34%減少し、APP/Loでは同様の部位で42%減少した。
 細胞体から離れた部位の樹状突起でも28%減少し、一方で先端樹状突起では二つのモデルマウスにおいて減少は確認できなかった。
 二つのモデルでは、CA1の基底樹状突起でコントロールと比べてArcタンパク量が増加していた事、そしてこの場所では抑制介在ニューロン(ソマトスタチン免疫染色により確かめています。)の大幅な減少が観察された。(二つの間には相関関係があることを示しました。)
 行動試験では、文脈的恐怖条件づけによるフリージングの減少、空間記憶の減少(モリスの水試験で確認。)が確認されました。

スパインの調べ方。(この論文では、マッシュルーム型スパインのみを測定しています。)
スパイン密度の測定はCA1の錐体細胞の細胞体からの距離と、apicalとbasalにより4つに分けていました。
Basalで細胞体に近い部位(30~120μm)と遠い部位(120μm以上)
Apicalで細胞体に近い部位と遠い部位。
神経細胞あたり少なくともbasalとapical dendriteを各三本以上定量し、それぞれ別々に集計しています。

 この論文では、apicalでのスパインの密度変化は観察できなかったようですが、Lanz et al,2003の論文では、同様のモデルマウスでスパイン密度の減少が観察されていました。

岩田ひろかず

スパインに関する論文です。

Learn Mem. 2012 Jul 18;19(8):330-6. doi: 10.1101/lm.025817.112.

CREB selectively controls learning-induced structural remodeling of neurons.

Middei S, Spalloni A, Longone P, Pittenger C, O'Mara SM, Marie H, Ammassari-Teule M.
Source
CNR-National Research Council, Rome 00143, Italy.

 転写因子の一つであるCREB(cAMP response element binding protein)についてです。記憶形成の際に必要であり、またin vitroでは樹状突起スパインの再形成に要求されています。またAMPA受容体、BDNF、Rho-GTPasesの上流に位置しています。つまり、スパインにとて重要な因子の一つとなります。しかし、invivoで学習による再形成についてはほとんど理解されていませんでした。
 そこで、今回は、CREBのドミナントネガティブであるmCREB発現するトランスジェニックマウス(mCREBマウス)を使用して、以下の事を明らかにしました。このマウスはドキシサイクリンの有無によりmCREBの発現をコントロールできるので、発生段階でのCREBの影響がない事は調べられています。

 CREB抑制マウスは、何もしなければ(普通の状態)、CA1錐体細胞でスパイン密度、形態、アクチン重合化の変化を引き起こさないこと
 CREB抑制は、CFCの成績を減少させる事、スパイン密度を減少させる事
を明らかにしました。

 CFCにおいて、スパイン密度の減少を減少させた要因として、著者らは二通りの解釈をしています。一つ目はthin spineが減少し、large spine形成が変化した、二つ目はlarge spineがthin spineに転換し、元々あったthin spineは消失した。この二つの可能性については、まだ調べられていません。またスパイン密度変化はapical basalの両方で生じました。
 mCREBではCFCにより、thin spineの減少が生じ、large spineの変化は生じませんでした。コントロールではどちらのspineも増加しています。(Fig3)
  

疑問点
 CFCにおいて、large spineの割合が、コントロールよりもmCREBの方が増加した事。増加割合は10%と小さいですが。
 スパイン形態、密度の変化の割合が10%程度と少ないような気がしました。この変化で本当に行動にまで影響を与えるのだろうかと思いました。
 
スパインの調べ方
 測定場所:CA1錐体細胞 apical basal両方で第二、三分枝を20µmのセクションで一つの細胞から5セクションを計測しています。
 密度;単位はスパインの個数/µm、神経細胞毎に平均密度を算出。
 分類:0.6µmを区切りとしてthin と largeに分けている。
 ソフト;imageJ Microbrightfields.

追記
 7/31にtalkしていただいたNagerlさんの論文が、引用されていました。
2004の論文です。スパイン形成・消失のバランスはLTPとLTDにより制御されている事(in vitro)を示した論文です。興味のある方は読んでみてください。

岩田ひろかず